こんにちは、ふんわり建築ばなしのcoto*です。
建築を学び、夢中で図面を書き、模型を作っていた学生時代。
あの頃の私は「好き」を原動力に、建築の世界に飛び込みました。
それから、実際に建築事務所で働きはじめた1年。感じたのは想像以上の現実と学びの多さ。この業界を選んで良かったと思っています。
今回は、そんな私が社会に出て建築事務所での最初の1年で気づいた10のことを綴ってみたいと思います。文系出身の私らしい口調で、でもちょっと真面目にまとめてみました。
同じように建築の世界を目指している方や、働き始めたばかりの建築初級者さんの参考になればうれしいです。

1. 誰のための図面なのか

学生時代の図面は、想像の中で施主を決めてはいたものの、プレゼンや講評で“魅せる”ことが目的でした。
でも実務で求められるのは、職人さん、施工者、行政、そして施主が「理解できる」図面。
つまり、図面は「伝えるためのツール」
見やすさ、正確さ、簡潔さ。誰にとっても「わかりやすい」ことが大前提です。
これに気づいてから、私は先輩方の描く図面の見方も、私自身の図面の描き方も大きく変わりました。

文字の大きさや寸法の表記、配置、小さなことでも1つ1つに気配りするだけで1枚の図面の見え方がグッと変わります。

読み手のことを考え、誰にでも読み取ってもらえる図面を描くということは、単に情報を並べる作業ではなく、「意思疎通のデザイン」だと感じるようになりました。

図面を受け取る人の立場になって想像してみると、「どこに何が描かれているか」「どの情報が重要か」「どう読み進めればいいか」といった流れや視線の動きまで意識するようになります。

たとえば、施工図では職人さんが現場で素早く判断できるように、必要な寸法を明快にまとめたり、行政提出図では法規のチェックがスムーズに進むように該当箇所を整理して表現したり。
施主に渡す図面なら、専門用語をなるべく避けて、空間のイメージが伝わるように色使いや、柔らかい線、補足のコメントを添えることもあります。

「誰のための図面なのか」を忘れなければ、図面はもっと伝わるし、もっと人に届く。

図面は建築の設計者だけのものじゃない。
関わる全ての人の間に立つ、“橋”のような存在なのだと思います。

2. 「建てる」はチーム戦。1人じゃできない

建築設計は、たくさんのプロフェッショナルとの共同作業です。
構造設計者、設備設計者、施工会社、職人さん、行政担当者…。
みんなで同じ方向を見て動かないと、建物は完成しない。
だからこそ必要なのが「コミュニケーション力」と「相手の立場を想像する力」。
1人で抱え込むのではなく、チームとしてつながる感覚が大切です。

コミュニケーション力とは何でしょうか。

私も一般的な企業への就職活動を経験したことがあります。
面接会場で特に耳にした、学生のアピールポイント、コミュニケーション力。

「人と話すのが得意です」「誰とでも仲良くなれます」——
確かにそれも大切な素質ですが、建築の現場で求められるコミュニケーション力は、もう少し違った性質を持っているように思います。

それは、「相手に正確に伝える」「お互いが理解するまで丁寧に聞く」「相手の本当の考えや思いは何か汲み取る」という、地道で誠実なやり取りの積み重ね。
たとえば、構造設計者に意図を説明するとき、専門的な用語を正確に使いながらも、自分のデザインの「なぜ」まで共有する。
職人さんに納まりを確認するときは、図面だけでなく、口頭やスケッチで細かい部分を共有する。
相手の専門性を尊重しつつ、こちらの視点も明確にする。そのバランスがとても重要だと感じています。

コミュニケーションは、仕事を“回す”ための手段ではなく、
「よりよいものを一緒に作るための連携」、そのための基盤。
そこには、お互いの時間や意図を尊重する気持ちと、同じ目線で進もうとする姿勢が欠かせません。

建築はチーム戦。
だからこそ、設計者である自分も「チームの一員」であることを、いつも心に留めておきたいと思います。

3. BtoBの設計で求められること

私が所属している事務所では、BtoC(個人住宅)よりもBtoBの設計案件が多く、
デベロッパーや不動産会社向けの建物に携わることが多いです。
その中で求められるのは、感性よりも論理性、設計の安定性やコストバランス。
「かっこいい空間」よりも「収益性のある計画」「管理しやすい構造」「飽きのこない、長く愛される場所つくり」など、
学生時代には触れなかった視点が次々に出てきました。
設計って奥深い…と改めて感じた瞬間です。

たとえば、共用部の寸法ひとつ取っても、「ゆとりがあって気持ちいい空間」にしたくなる気持ちをぐっとこらえて、管理効率やコストとのバランスを最優先に考える必要があります。

それでも、デザイン性の高さを失わないようにと日々試行錯誤しています。

また、設備の配置や構造の通し方も、施工性や将来的な修繕まで視野に入れて計画することが求められます。
華やかさや個性よりも、「壊れにくく、使いやすく、安全で、無理がない」こと。
これがBtoBの設計における“良いデザイン”であり、それを的確に形にする力が問われるのだと感じます。

学生時代は「自由にデザインできる」ことにワクワクしていましたが、
今は「制約の中で最適解を探す」ことにも面白さを見出せるようになってきました。

設計とは、自由な創造だけではなく、現実の中にどう成立させるかを突き詰める仕事。
BtoB案件は、まさにその本質を学べるフィールドだと感じています。

4. クライアントとの距離感は大事

「施主の希望を全部叶えたい!」という思いが先行していた私ですが、
現実はそう単純ではありませんでした。
言われたことをそのまま形にするのではなく、本当に必要なことを整理し、時には作り手として”NO”を伝える勇気も必要だと今は思います。NOと伝えるためにも、信頼関係は大切。
信頼関係を築くには、丁寧なヒアリングと、設計者としての判断軸が不可欠です。

クライアントの要望を一つひとつ受け止めながら、
「なぜそれを望んでいるのか」「本当にそれが最適なのか」を丁寧に読み解いていく。
表面的な言葉だけでなく、その奥にある生活スタイルや価値観をくみ取ることが、設計者の役割だと感じています。

そしてもう一つ大切なのが、“寄り添いすぎない”距離感
近づきすぎると、客観性を失ってしまうことがあるからです。
クライアントの視点に共感しつつも、プロとして冷静に全体を見渡す目線を忘れない。
そのバランスを保つことで、クライアント自身も気づいていなかった「本当に必要な暮らし方」や「もっと良い選択肢」を提案することができると感じています。

要望をただ叶えるのではなく、ともに考え、ともに選ぶパートナーであること。
それが、設計者として信頼されるための一歩だと思っています。

5. 現場に行かないとわからないことが多すぎる

正直、学生時代は施工会社に就職しようかとも考えていました。現場を知ることが設計を理解することへの近道だと思ったからです。
今でも、現場へ行ける日はできるだけ多くを学ぶぞ!という気持ちで足を運んでいます。
そして実際に現場に立ってみると、図面だけでは想像できなかったことが山ほど
施工の工夫や職人さんの知恵、納まりの調整、そして現場特有の“空気”。
図面通りにいかない現実を肌で知って、設計の深さとリアルさに出会えました。
現場に行くこと、それ自体が最高の勉強になります。と言っても最初はわからないことが多いですが…

現場での気づきは、次の設計に確実に活きてきます。

たとえば、納まりの検討。
図面上では成立していたはずの納まりが、実際の施工状況や使われる材料の性質によって微妙にズレたり、うまくいかなかったりすることがある。
そんなとき、職人さんたちがその場でどう対応しているかを見て学ぶことで、「次はこの部分、もっとわかりやすく描こう」「この材料のクセも考慮して設計しよう」と、自然と次の引き出しが増えていきます。

また、現場で職人さんと直接話すことで、自分の描いた図面がどう受け取られているか、どこが読みづらかったのか、リアルなフィードバックをもらえるのも貴重です。
「ここ、こう描いてくれると助かるよ」——そんな一言が、次の図面の質を確実に高めてくれる。

図面を描くだけが設計じゃない。
実際に“建つ”ところまで見届けて初めて、本当の設計ができるようになる——
そう実感する日々です。

まだ5/10ですが、長くなってきたので次の記事にしたいと思います◡̈

次の記事もよろしくお願いします⑅◡̈*

建築学生だった私が社会人1年目で感じた10のこと -part2-

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